昭和30年代,長らく30t積であったガソリンタンク車は,タキ9900形式の誕生により初めて35t積車を実現した。タキ50000形で日本車輌が開発された魚腹型異径胴タンク体(F5s)と昭和36年に三菱が開発したフレームレス構造を組み合わせた,わが国初のフレームレスタンク車で,当時としては画期的な車輌であった。しかし,異形胴部分は,大型プレス機による成形が必要な手間のかかるものであった。
昭和41年に開発されたタキ35000形は,タンク体に耐候性高張力鋼板(SPA)を採用し,タンク胴板厚さをタキ9900型の9mmから6mmに,鏡板厚さを12mmから8mmへと,大幅な軽量化を図った。さらに,結合部はロール成形が可能な同心円円錐型とし,製作し易い構造とした。、昭和40年代の高度成長を支えた標準タンク車となった。
■タンク本体
下図はタンク体の製作図で,1から18の数字は部品番号をア、イ、ウ等のカタカナは断面及び詳細図記号を現す。
■部番1:鏡板(SPA t8)
鏡板は板厚8mmのSPA板をプレス成形したもので、中央部の内半径は2,000mm,すみ部の内径は180mmである。イ部詳細は胴板と溶接部の詳細図で,胴板の6mm厚に合わせるため,鏡板フランジ部(内径2050mmの円筒部分)を切削し、溶接部の段差を解消している。
■部番2:胴板(SPA t6)
円錐径にロール成形された長さ3,000mmの胴板で、標準設計は3枚をタンク上部と左右120゜ピッチの3ヶ所で溶接し葉巻形異径胴部を形成している(視ウウ参照)。1枚の鋼板で円錐形を成形するメーカーもある。
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■部番3,4:胴板(SPA t6)
内径2500mmのタンク中央部でロール成形されたSPA板をタンク上部から30゜位置で溶接している(断面キキ参照)。標準設計は長さ2341mmの胴板2個をタンク中央で継いでいるが、メーカーにより短い胴板を4個継いでいるロットもある。タンク溶接は「内面手溶接ウラハツリ後外面ユニオンメルト」と書かれている(エ部詳細)。また,部番2〜4の胴板同士の溶接は長手方向の溶接部が重ならないように設計されていることを注意して欲しい。
■部番6,7:補強(SS41 t9x65)
タンク内面の補強環で,6本あり,板厚9mm,幅65mmの普通鋼帯製である。補強環の下部は300mmの隙間を設け残液を防止し,上部は半径20mmの半円穴を設けている(断面カカ参照)。
■部番5:補強(SS41 L50x50x6)
タンク下面に設けた長さ500mmの山形鋼製のタンク補強で,部番6,7の補強環下部隙間部を補強することが目的と考えられる。
■部番8:握り棒(SGP 3/4)
鏡板中心から300mm上部に取り付けた長さ1000mmの手摺であり,台枠端梁の手摺が強化された近年のタンク車では省略されている。
材質のSGPとは配管用炭素鋼鋼管のことであり,呼びの3/4はインチ系の呼びで通常3/4BとBと付けて表現する。メートル系では20Aと現わし、外径は27.2mmである。 |